

総合監修・設計:千葉学建築計画事務所
主宰 千葉 学 Manabu Chiba
本プロジェクトは、高輪で自社所有地の有効活用を検討していた安田不動産株式会社より相談を受けてスタートしました。この敷地と街にとってのベストを考え抜いた結果、周辺との関係性を重視し、低層の木造住宅を建物の基本構造として採用しています。また、住む人と地域にとっての「コモン(共有空間)」となることを基本コンセプトとして打ち立てました。2020年2月に竣工したTAKANAWA SITEが第1期、2022年2月竣工のTAKANAWA CUBE East & Westが第2期。そして、第3期としてTAKANAWA EDGEが2024年2月に竣工しています。
高輪は都心が目と鼻の先という恵まれた立地で、まわりに高層マンションが建ち始めた一方、このエリアには低層住宅の下町的雰囲気が残っています。東京にはよくある風景であり、魅力的でもあるので、なるべく温存したいという思いがありました。そこで大切にしたのは、なるべく建物を低く抑えること。木造2階建ての建物がたくさん並ぶエリアの特性になじむよう、2階建てか、せいぜい3階建てまでを想定しました。
また、TAKANAWA SITEでは、外壁にモルタルという昔から住宅に使われてきた素材を採用して周辺の住宅になじませました。TAKANAWA CUBE East & West、TAKANAWA EDGEはサイディングを用いましたが、一戸ごとに色を変えて張り分けています。どうしても大きくなりがちな集合住宅の建物を色面で分割することで、ヒューマンスケールな街並みと歩調を合わるためです。住人にとっては「自分の家」がどこなのかを認識しやすく、愛着が湧くと思います。
敷地内にオープンスペースをつくり、街とつながりを持たせることも重視しました。一般的な集合住宅はとかく街に対して閉ざされがちで、住人以外は立ち入りできないようにすることがほとんどです。しかし、安全性を担保しつつもお互いに目の届く環境をつくり、住民同士がなんとなく認識しあえるような距離感を目指しました。そのような関係性は、セキュリティの面でも有利だと考えています。
そこでTAKANAWA SITEでは、1階をピロティ状に開放し、路地空間が毛細血管のように建物の中に広がっていくようなイメージで計画しました。TAKANAWA CUBE East & Westも同じように路地状の空間を連ねた構成です。1階は外部の人も比較的自由に歩き回れるようにし、さらに2、3階にも立体的に路地を展開。住人のための街路のような空間をつくり出しました。
TAKANAWA EDGEは、敷地条件がより厳しい旗竿地での計画となりました。そのため、路地空間をつくることはかないませんでしたが、各戸に少し大き目の玄関ポーチを設けることで補っています。それは生活を外へと拡張させ、住人同士が挨拶を交わせるような場として活用されることでしょう。こうして、3つプロジェクトすべてにおいて、都会的な、でも人の匂いのする「付かず離れず」の距離感を実現できたと思っています。
単身、あるいはカップルまでを想定したTAKANAWA SITE、TAKANAWA CUBE East& Westと違い、TAKANAWA EDGEはファミリー向けの長屋形式を取りました。敷地条件から導き出された結果ではありますが、住人の属性をより多様化させ、自然発生的な「街」に近づいたという面で、プロジェクトを進化させる意味がありました。
本プロジェクトは、これから都市が目指すべき街づくりの姿を示しています。日本の集合住宅の歴史を振り返ると、戦後復興期の住宅供給が目的だったため質より量が優先され、住宅が本来持つべき多様性や接地性が後回しにされてしまったのは、致し方ないことでしょう。しかし、高度成長期になると集合住宅は商品化され、一戸のスペックで価値を高めていく傾向が強まりました。そのため、街づくりの一部を担うという責任感が抜け落ちてしまった気がするのです。また、商品として売られることで、必然的に世帯収入の近い層が集まって暮らす状況がうまれ、コミュニティが閉じられたものになりがちであることも、社会の豊かさとは逆行するように感じていました。
本来、集合住宅は街をつくる基盤であり、影響力の大きな社会インフラです。人口減少から逃れられないこれからの時代、居住性の高い賃貸住宅が増えていくことは、持続可能な街づくりに直結します。そして、それは多様性に富んだ世代や属性の住み手を受け止める、おおらかな器であることが望まれます。また、本プロジェクトのように10〜20世帯程度に規模を抑えた建物を連鎖的につくっていく方法は、小回りが効いて持続可能性も高いのではないでしょうか。
今後、このような開発が東京の街で広がり、ひとつのスタンダードになっていってほしいと思います。
総合監修・設計:千葉学建築計画事務所
主宰 千葉 学 Manabu Chiba
建築家。東京大学大学院教授。 千葉学建築計画事務所主宰。 日本建築学会賞作品賞、吉岡賞、JIA新人賞など多数受賞。
1960年 東京都生まれ
1985年 東京大学工学部建築学科卒業
1987年 同大学大学院工学系研究科修士課程修了
1987年~1993年 日本設計勤務
1993年 ファクター・エヌ・アソシエイツ共同設立
2001年 千葉学建築計画事務所設立
2001年~2013年 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻准教授
2009年~2010年 スイス連邦工科大学(ETH)客員教授
2013年~ 東京大学大学院工学系研究科教授