安田イズム

10 楽天主義【ラクテンシュギ】

善次郎翁の考える楽天主義とは
「自分自身が持つ知能と技量を
労力をもって錬磨すれば、
自ずと幸福な人生を
送れるようになる」
という考え方である。

一般にいう楽天主義は、現実を肯定的に捉え、
理想は必ず実現できるものと考える人生観、あるいは気質を指している。
物事にくよくよすることなく逆境の時も常に前向きでいた善次郎翁もまた、
こうした人生観の持ち主であった。
ただしそれは「物事はなるようになる」「明日のことは心配せず、今を楽しく生きよう」
といった現代的な楽天観ではなく、
一生を通した継続的な努力と確固たる信念に
裏打ちされた考え方であったことを忘れてはならない。

奮闘時代に益をもたらす質素生活

楽天主義に関して善次郎翁はまず「天は、我々がこの世を愉快に暮らせるように万事を仕向けている。人間は、自身の希望と経験と技能とが一致する業務に従事すれば、自然と日々を愉快に暮らせるようになるものだ」と書いている。ただし翁は「奢侈逸楽の生活をもって人間の愉快と誤解してはならない」と厳しく戒め、「日々を愉快に暮らすための一条件として、質素生活に言及しておかねばならない。特に技能を得るまでの奮闘時代には、質素生活は有形無形に大きな利益をもたらす。自分の才学と性質に鑑みて、これなら生涯を託すにふさわしいと思える職業に就くことは楽天主義への第一歩であるが、余計な物を持たない生活はそうした決意をした者を勤労へ集中させる。すると勤労を通じて根気と忍耐力が養われ、人より多く働けば技能も早く身について成功は堅実になる。仕事はますます面白くなり、将来への希望も大きくなって、日々愉快の度が増していくのである」と説いた。

理想の実現へ向け、たゆまぬ努力を

自らの信念に基づく楽天主義を貫きながら、師弟や部下にも愉快な人生を送ってほしいと願っていた善次郎翁は、在宅時にも出勤時にもこれらの人々と共に食事を楽しみ、裏表のない態度で彼らに接した。そして若さゆえに抱く冒険心や憧れにも理解を示しつつ、一歩ずつ着実に前進していくことの大切さを根気強く説いた。翁の著書『使ふ人使はれる人』に、次のような記述がある。

「実業の社会はこれからである。実業の力を大いに借りるべき時代は必ず来る。その時、店員は堅固なる実業家として、我が日本を守備し、日本という国を前進させ、日本人の生活を向上させていかねばならない。諸君が理想の店員として努力し、理想の大実業家として世界に雄飛することを、私は心から願っている」。

没後100年近い時が過ぎても、善次郎翁の言葉は少しも色褪せることがない。

当社もまた翁のこうした思いに応えるべく、一丸となって事業を推進し、よりよい未来の実現のために、人々の「愉快」のために、力を尽くしていきたいと考えている。

安田イズム

安田財閥の創始者である安田善次郎翁の言葉を現代語に翻訳しながら、安田のDNAに流れる「安田イズム」をご紹介します。