安田イズム
09 物薄情厚

「人生を真に楽しむための
娯楽に最もふさわしいのは、
一時の愉快や欲に
流れるものではなく、
人格向上につながる精神の浄化と
修養を行えるものである」
という考え方である。
事業家として多忙を極めていた善次郎翁だが、
実は非常に多くの趣味を持つ人物であった。
旅行のほか、茶道や書道、絵画、和歌、生け花、囲碁、乗馬など、
実に幅広い分野に作品や逸話を残している。
ただし、どの趣味においても翁は「簡略質素を旨として華美を慎む」
という日頃からの信念を曲げることなく、
娯楽を通して心を清め、自らを修練していくことに重きを置いた。
いわく「物薄うして情厚し」。
この言葉もまた善次郎翁の揺るぎない精神を表している。
「物薄うして情厚し」
が築いた人脈
善次郎翁は欲に振り回されない人生を送るための心の清浄法として「茶道が最も効果的である」と述べている。また、茶道に限らず、すべての趣味において善次郎翁は「物薄うして情厚し」を信条に心の修練を図ることを目指した。
たとえば書道では「積善の家に余慶あり」といった故事を座右の銘としてしたためたり、絵画では大黒天を好んで描いたりしながら、各地で開催される書画展にもよく足を運んで名家の作品を研究した。また茶道では「階楽会」「和敬会」、囲碁では「拙碁会」などの同好会を作ったり、乗馬では親族を連れて遠乗りに出かけたりと、趣味を通して人と触れ合い、親交を深めることを大切にした。同好の士には松方正義や渋沢栄一など政界・財界の名士から奉公人時代の友人、旅先で偶然同宿になった人までが挙げられ、有名無名に分け隔てのない翁の友人関係を見ることができる。

すべては社会の発展のために
常に大衆の利益を考え、危機に陥った銀行の救済や被災者への寄付を数多く行った善次郎翁は、一方で「救済の美名の下に私利を営んでいる」
「他人の悲境に乗じて勢力を拡大している」といった誹謗中傷を受けることも多かった。しかし翁はこうした誤解を怖れず、「汝の敵を愛せよ」の考えから反論することもほとんどなかった。私利私欲のためではなく、翁がただ純粋に大衆を愛し、その役に立つために生きたことのわかる一文がある。「瀕死の悲境に陥った銀行を救済したことで多数の預金者が預金損失の不幸を免れ、その土地の産業にも習俗にも変動を与えずに済み、その地が今後も発展向上していく様子を見ることができるのは私にとってこの上ない愉快である。銀行の救済が縁となってその地に私の信用が扶植され取引が広まっていくこと、これが銀行を救済したるによって私が得た利益にほかならない」。
翁のこうした志は、安田イズムの最大の柱として今に受け継がれている。当社もまた、事業を通して豊かな社会の発展に寄与することを目指し、前進していきたいと考えている。