其の八「人物如何」【ジンブツイカン】 其の八「人物如何」【ジンブツイカン】

事業を成功へ導く四つの条件

銀行家として多くの企業への支援と救済を重ねてきた善次郎翁は、それら企業と接した経験をもとに「事業を成功へ導くためには主に四つの条件が必要である」と述べ、次のように挙げている。
「第一はその事業が公共の利益と万人の便益、社会の進歩につながる性質のものであること。第二は収支計算上、相当の利益を見込めること。
第三は四周の状態、つまり準備資金や社会の景気、競合他社への対策などが整っていること。そして第四は、事業に当たる人物に熱意と誠意があることである。殊に第四の条件は不可欠であると考える。たとえ第三までの条件がすべて揃っていたとしても、事業に当たる人物が不真面目であり誠意を欠いているならば、どれほど有望な事業であっても成功はしないであろう。逆にいえば第三までの条件に少々欠けるところがあったとしても、局に当たる人物が熱心で誠実であり、その事業に全身全霊を捧げる覚悟を持っているならば、百難を排し万難を凌いで多くは成功するのである」。

天才よりも実直を採れ

善次郎翁は企業の経営者に対してだけでなく、人材の登用と育成に関しても「人物本位」が第一と考えていた。「店員採用の方法」と題した文章に、こんな記述がある。
「近頃は人を雇うにつけて出身学校に第一の注意を払う傾向があるが、私は不賛成である。学校の如何によってその人物を知ることはできないからだ。また雇い入れたのちの養成という観点からいえば、私は天才よりも実直な人を採用したいと思う。並外れた才を持つ人は苦心を知らぬが故に極端で我の強いところがあるが、実直な人には職務を忠実かつ綿密に果たそうとする精神と熱心さがある。これは大きな美点である。店主はそこをよく考えて、いたずらに時代風潮に従うことなく、人物本位の採用に当たらなければいけない」。
この言葉通り、翁は一貫して人物本位の採用を行い、実践教育に力を入れた。育成に時間のかかることを厭わず、長く仕えた部下の働きに深い労いの情を示したという逸話も残っている。


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