其の弐「客人第一」【キャクジンダイイチ】 其の弐「客人第一」【キャクジンダイイチ】

ある老婆の来店

明治42(1909)年2月、善次郎翁は、とある銀行の整理救済の調査のため、支店を視察していた。
善次郎翁が奥の部屋で支店長と話をしていると、店内に現れたのは、みすぼらしいなりをした老婆。彼女は「お願いがあって参りました」と、支店長に二度三度と声をかけたものの、支店長は応対の相手が善次郎翁ということもあり、老婆のために席を立とうとせず、下役に相手をさせた――。
この老婆、実は銀行の近くに家とはいえないような小屋を建てて住んでおり、物乞いをすることも度々。それが昨夜火事に遭ったため、屋根裏の竹の節の中に何十年も貯め込んでいた紙幣が焼けてしまい、その焼け残りを新札に替えてほしいということだった。

接客に差別はならず

老婆の持ってきたお金を行員が数えてみると250円ほど。しかしこのうち通用期限が切れてしまった古いものがおよそ120円もあった。これを見ていた善次郎翁は、老婆の前に出て行くと、「毎度ありがとうございます。どうぞごゆっくり」と丁寧に応対をしたうえで、「その通用期限の切れたものは私が何とか日本銀行に聞いてみましょう」と、お金を預かり、後日30円ほどを彼女に送金したのである。そしてこの支店長に対し、「お客の風采をみて応対を差別してはならない」と厳しく戒めたという。善次郎翁は常々、「一歩銀行へ入れば、その人はすべてお客様である」と自身で行員に言って聞かせるほど、このお客第一主義を徹底させていた。老婆のエピソードからは、翁の有言実行ぶりがうかがえる。客を大切にすることこそ、善次郎翁の終生変わらぬ信念であった。
それは時を経た今も、安田イズムとして現在の安田不動産にしっかりと根付いているものである。


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