其の参「正直正統」【セイチョクセイトウ】 其の参「正直正統」【セイチョクセイトウ】

ただ誠心誠意を持って売ること

江戸時代の独立開業当時、善次郎翁のエピソードにこんなものがあった。
「私は毎朝四時には必ず起きて、先ず向こう三軒両隣の前を掃いて、水を撒き、それから内に入る。近所はまだ何処も起きていない。水甕に水を汲み込み竈の下を焚き付けて、それからお婆さんや小僧を起こす。こういう風で勉強したから世間の気受けも至って宜しく、店も次第に繁昌する。益々一心不乱になって働いた。品物を売るにも、沢山ある中から品をよって渡すようにしたから、よほど評判になって『あそこへは妙な男が店を出した、年は若いが仲々勉強する』といって京橋や八丁堀、鉄砲洲辺からまで続々と買いに来るようになった」とある。
善次郎翁はこのようなことを「商品を高く多く売りたいから」ではなく、「ただ誠心誠意を持って売る」ためだけに行っていた。その後の繁盛は二の次であるところに正直正統の精神が垣間見える。

実際に行う難しさ

正直正統について善次郎翁は「自分一身の都合上の便宜の為めに、他人の迷惑を顧みず虚言を吐くようなことは断じて為さぬこと」とも言っている。ただし行動に移していくのには大変な苦労があったようだ。「例えば客に対してこちらは十分の品とまで思っていなくとも、向こうを安心させる為めには上等な品でございますといいたい、こういう類のことは幾らもある。客の方は全く素人で何も気の付かない場合に、自分の品の悪い所を知らせてやることは、商人にとっては非常に苦痛である。けれども、私は斯様な場合に断じて一時的にその場間に合わせの事はやらなかった。たとえ自分の損得は犠牲にしても客に対して親切を尽くすことを旨として働いた」と記している。

堅実かつ誠実にして王道を歩む

「正直正統」という、誠実な心をもって全力で取組む精神は、当社の経営理念の一つである「堅実かつ誠実にして王道を歩む」に今なお受け継がれている。企業が継続的に発展していくには、正直正統の精神と遵法精神・倫理観を大切にし、時代の潮流に流されることなく堅実な経営を行っていくことが大切であると当社は考えている。


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